FP・金融教育講師向け

金融経済教育を担う人材の育成について(金融庁の約10年前の報告書)

 2024年中に設立が予定されている「金融経済教育推進機構」について、関心が高まっているところではありますが、約10年前に金融庁が取りまとめた報告書があり、その内容を調べてみると、たいへん興味深い内容でしたので、記事にさせていただきました。

金融経済教育報告書

金融経済教育研究会報告書

 少し古い報告書になりますが、平成25年(2013年)4月に「金融経済教育研究会報告書」(以下、「同報告書」といいます)が金融庁で取りまとめられました。22ページのボリュームですので、ポイントを絞っていきたいと思います。

 同報告書では、金融経済教育の現状把握・あり方について、有識者・関係省庁・関係団体をメンバーとする『金融経済教育研究会』において7回にわたり議論された内容が取りまとめられています。

10年前の課題認識は?

 同報告書内に、『金融経済教育推進会議』を設置し、金融教育の普及・推進を図ることが企図されています。同会議とは金融広報中央委員会のネットワークを活用し推進していく場と定義されています。2024年に設立される「金融経済教育推進機構」の目的と似ています

 また、同報告書では、金融教育のあるべき姿について、3点を挙げています。

  • 生活スキルとしての金融リテラシーを向上させることで、安定的な資産形成を図るための運用、保険・借入の適切な活用が期待できる
  • 金融商品の利用者が、健全で質の高い金融商品の供給を促すことで、より良い金融商品が普及していくことが期待される
  • 我が国家計金融資産の有効活用につなげること

 いかがでしょうか。

 あるべき姿について、約10年前の報告書ではありますが、提示されている内容は現時点の課題認識とさほど変わらないように感じないでしょうか。

金融教育を担う人材の育成について

 同報告書では、人材の育成について以下の記載がありました。

金融経済教育の推進にあたり、今後、質の高い金融経済教育の提供を行うためには、現場で実際に教育を担う人材を育成することが重要である。このため、学校教員の金融経済教育に対する意識・スキルを高める取組みを進めるとともに、各実施主体で、金融機関で勤務経験のある OB を活用するなどの工夫を凝らしながら、推進を図ることが重要である。その際、金融リテラシーの 4 分野・15 項目と今後検討される体系的な教育内容のスタンダードを理解し、実際に教える際のスキルを身に付けるとともに、金融経済教育の場において金融商品の販売推奨は行わないこと、アドバイス等の場では利用者の立場に立ち、守秘義務に配慮することのできる人材の育成に努めることが必要である。

 各実施団体とは、全国銀行協会、日本証券業協会、投資信託協会、生命保険文化センター、日本損害保険協会等の業界団体のことを指しています。現在、これら団体においては、主にOBを嘱託講師として、講師派遣の取組を行っていることがあり、当時から現在に至るまでの講師派遣の状況についてを伺うことができます。

10年たって、状況はあまり変わっていないかも・・・

 この10年間、いろいろなことがありました。

 民主党政権が崩壊した2012年11月。自民党政権への交代、アベノミクスによる財政出動や日銀の大規模緩和による過剰流動性相場が生まれ、株価は大きく上昇し、マイナス金利からくる日米金利差の拡大を背景に為替も円安となり、マーケット環境は極めて良好な環境にありました。

 その後、新型コロナウイルスの感染が広まりを見せ始めた頃、株価は一気に下落し、その後、各国政府・中央銀行による大規模なマーケットへの資金供給により、株価はV字回復、バブル後の高値を更新する局面まで戻ってきています。

 このような環境を振り返ると、いわゆるゴルディロックスな市況が長く続き、投資してきた人はそのリテラシーが必ずしも高くなかったとしても、インデックス運用等を通じてその恩恵・果実を享受することができた一方で、投資することができなかった人はその恩恵を享受することができなかったのかと思います。

 ゆえに、金融リテラシーの高まりが求められなかったというと、やや飛躍しているような気もしますが、社会全体がそこまで金融教育に対する機運が高くなく、注目が集まらなかったという点が、同報告書で掲げた至極真っ当な目的が達せられている気がしないという感想につながるのではないかと感じます。

いま、大きく変化する環境にある

環境の変化

 現在、欧米当局による金融引き締めは長引くことが想定され、日銀の大規模オペ、YCC、マイナス金利政策等は出口戦略を苦慮している状態にあると思われます。

 すなわち、今後は日本においても金融引き締め、金利がある世界が再び訪れるということになります。金融引き締めの環境下においては、TOPIX等のインデックス運用のみで収益をあげることは難しいと考えられ、アクティブファンドや個別銘柄への投資により、効率的な投資収益を得る環境に大きく変わりゆく最中にあります。

 もちろん新NISAやiDecoの拡充など政策面の後押しもありますが、マーケット環境そのものが転換していく中、これまでの金融リテラシー教育では激動する環境に耐えられないのでしょう。

『金融経済教育推進機構』は二の轍を踏まない

 この10年間とこの先10年間で日本の人口構成を始めとした外部環境は厳しいものに変容していく中、成熟国家として株式・配当等の資産立国を目指すうえで、国民1人1人のリテラシーの向上は必要不可欠となります。

 金融教育の担い手のリソースは限られている中、各業界団体や民間金融機関等が独自に実施している金融教育の実施体制は効率が悪く、その統合・整理を金融経済教育推進機構では実施される予定です。

 詳細については2023年秋の臨時国会での法案可決をもって、具体的な開示が進んでいくものと思われますが、私も金融教育に携わるはしくれとして、機構の取組には積極的に参画していきたいと思います。

 

1級FP技能士/元銀行員
まくすけ(1級FP技能士)
こんにちは。まくすけです。 元メガバンクの社員です。 銀行での経験を活かして、金融教育に関する情報発信をしています。
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