全国証券大会における岸田首相の発言
(~前略)
出所:首相官邸HP 総理の一日(2023年9月25日)
NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充・恒久化に続き、資産運用業とアセットオーナーシップの改革や、資産運用セクターへの新規参入の促進、また、日米を基軸とした資産運用フォーラムの立ち上げ等の政策、これを表明いたしました。
(略~)
アセットオーナーとは
アセットオーナーとは「機関投資家のうち、年金基金や銀行、保険会社等の金融機関、財団等、資産を保有する組織のこと。資産運用を委託する顧客(受益者)の資金を預かって業務委託契約を結び、受託者責任に基づいて受益者のために資産を管理し、運用益の獲得を目指す。」
出所:野村證券 証券用語解説集 アセットオーナー
年金基金とは~アセットオーナーとしての視点で~
年金基金の制度は複雑です。複雑なため、1つの記事で網羅的に情報を記載することは、適切ではないと考えました。
この記事は、年金基金の制度ではなく、アセットオーナーである年金基金が果たすべき役割(=年金資産運用)の観点で記載していきます。
年金基金は公的・私的年金の2種類ある
公的年金
公的年金は、国が運営する年金全体のことを指しています。具体的には、国民年金・厚生年金のことです。
公的年金は、現役世代が国民年金保険料・厚生年金保険料を納付し、高齢世代の年金に充てる方式(賦課方式)が採用されています。
現役世代が納付した保険料は、資産運用を行っています。その運用主体がGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。
GPIFでは、219兆1,736億円(2023年度第1四半期末現在)の資産を運用しています。
私的年金
私的年金とは、公的年金の上乗せの給付を保障する制度のことです。具体的には、確定拠出年金(DC)・確定給付企業年金(DB)といった企業が運営主体となる制度です。
![年金制度](https://financial-educational-navigation.com/wp-content/uploads/2023/09/26959701_m-320x180.jpg)
このほか、個人で金融機関と契約するDC(iDeCo)、保険会社と契約する積立年金保険等、老後に年金形式で受領する形式の金融商品も指しています。
年金基金の資産運用規模について
公的年金の保険料を運用しているGPIFの資産運用規模は、219兆1,736億円(2023年度第1四半期末現在)です。
私的年金である確定拠出年金(DC、iDeCo含む)の資産運用規模は、21.5兆円です。(出所:運営管理機関連絡協議会作成確定拠出年金統計資料(2022年3月末))
同じく私的年金である確定給付企業年金(DB)の資産運用規模は、66.2兆円です。(出所:厚生労働省 確定給付企業年金制度 確定給付企業年金の事業状況(2020(令和2)年度))
年金基金の資産運用手法について
年金基金は、公的年金も私的年金も、信託銀行・生命保険・投資運用業者の提供する運用商品へ投資することを通じて、目標とする利回りを達成すべく資産を運用しています。
GPIFの運用目標
年金積立金の長期的な運用目標=賃金上昇率+1.7%を目指して、運用ポートフォリオを構築しています。
GPIFは、この20年間の間で大きく運用に関する方針を変更しています。
![](https://financial-educational-navigation.com/wp-content/uploads/2023/09/image-23.png)
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![](https://financial-educational-navigation.com/wp-content/uploads/2023/09/image-25.png)
特にガバナンスの点において、2016年からトップに日本を代表するファンドである農林中金の出身者を充てる人事を行っており、運用に長けた人材を受け入れることで、リスク性資産の運用能力を向上させてきた経緯がある。私が営業をしていた頃は、GPIFの職員の運用にかけるマンパワー・専門性不足の問題が指摘されていた。というのも、債券中心の運用手法であれば、高度な資産運用スキルは必要としないが、リスク性資産、ましてやオルタナティブ投資には高度なスキルが必要であり、この10年弱の間にGPIFの運用担当者の体制は大きく変わっているものと考えられるんだ。
私的年金の運用目標
DCの運用目標
企業型DCの場合、会社のほうで想定利率を設定しています。想定利率が運用目標となります。仮に想定利率以下の利回りになると、当初設計した退職金の水準を下回ってしまいます。
個人型DC(iDeCo)の場合は、特に目標となる指標はありません。
DBの運用目標
DBの場合、一定の資産運用益を見込んで制度の設計を行うのですが、その運用益の利率のことを予定利率と呼んでいます。なので予定利率が運用目標となります。
また、退職給付会計上の期待運用収益率も、目標ではありませんが、これを下回ると退職給付費用(人件費)の発生要因となるため注意が必要です。
いま、アセットオーナー改革が叫ばれる理由
私的年金(特にDB)の改革が求められている
年金基金を運営している母体企業の抱える問題
DBは人事・財務部門の担当者が実務を取り仕切ることが多いと思いますが、資産規模が小さければ小さいほど担当者は少数となり、マンパワー、専門性不足の問題があります。
DBは、信託銀行や生命保険会社が総幹事会社として、企業の窓口となり資産運用の提案を行うのですが、マンパワー不足がゆえに、総幹事会社の言いなりになってしまう、もしくは思考停止で従来からの運用スタイルと変わらない運用をずっと続けている会社が多くあります。
また、企業はDBの掛金についてはコストとして捉えており、単年度の年金運用の不調による追加掛金拠出が発生することについて、大変ネガティブな受け止めをするケースが多かったです。